人工膝関節置換術(TKA)は変形性膝関節症などの痛みを大きく改善できる手術です。 ただし、手術が成功した後も「思ったほど痛みが取れない」「膝の前のほうがズキッと痛む」「階段で違和感が残る」という方が、実は1〜2割おられることが世界的に報告されています。 その見逃しやすい原因のひとつが、脛骨(すねの骨)側のインプラントの向きが内側にねじれて設置されてしまう「内旋設置」です。

TKA後の痛みと脛骨インプラントの内旋設置——見逃したくない原因の解説図
図:脛骨インプラントの内旋設置が引き起こす症状と診断・対処のポイント

内旋設置とはどういう状態か

TKAでは、大腿骨(太ももの骨)・脛骨(すねの骨)・膝蓋骨(お皿)の3つのパーツにインプラントを取り付けます。 このうち脛骨側のインプラントは「真上から見たときの向き(回転)」を適切な位置に合わせて設置する必要があります。 この向きが本来あるべき位置より内側にねじれた状態が「内旋設置」です。

どんな症状が出やすいか

脛骨インプラントが内旋して設置されると、以下のような症状が起こりやすくなることが報告されています。

  • 膝の前面(お皿の周り)の痛み——膝のお皿の動きが外側にずれ、前膝部に負担がかかります
  • 階段の下り・しゃがみ動作での痛みや引っかかり感
  • 膝が最後まで伸びきらない感覚——本来の最終伸展動作(screw home movement)が妨げられます
  • 「膝が抜ける」「ぐらつく」感じ——屈伸のたびに靭帯への張力が左右非対称になることで起こります
  • リハビリを続けても可動域が改善しない——内旋が大きいほど関節が硬くなりやすいと報告されています

レントゲンだけでは分からない——CT評価が必要

通常のX線写真(レントゲン)では、インプラントの「回転」まで正確に評価することはできません。 内旋設置を判断するには CT検査(できれば3D-CT) が必要です。 「レントゲンでは異常がない」と言われても、設置回転の問題は除外できていないことがあります。 TKA後の原因不明の痛みや不安定感では、CT評価が診断の糸口になることがあります。

治療の流れ

内旋設置が疑われた場合でも、すぐに再手術となるわけではありません。 まずはリハビリの工夫・内服・注射などの保存療法を試みます。 それでも症状が強く日常生活への支障が大きい場合には、インプラントを入れ替えて回転を矯正する再置換術が選択肢になります。 再置換術は通常のTKAより負担の大きい手術ですので、CT所見と症状を総合して慎重に判断します。

「TKA後の痛みは仕方ない」と諦める前に

手術後に残る違和感・痛みの原因はさまざまで、感染やインプラントのゆるみ、リハビリ不足なども含め総合的に評価することが大切です。 「説明のつかない痛み」が続く場合には、脛骨インプラントの回転設置を含めたアライメント評価を一度検討してみてください。

参考文献

  1. Barrack RL, et al. Component rotation and anterior knee pain after total knee arthroplasty. Clin Orthop Relat Res. 2001;392:46-55.
  2. Nicoll D, Rowley DI. Internal rotational error of the tibial component is a major cause of pain after total knee replacement. J Bone Joint Surg Br. 2010;92-B(9):1238-1244.
  3. Bédard M, et al. Internal rotation of the tibial component is frequent in stiff total knee arthroplasty. Clin Orthop Relat Res. 2011;469(8):2346-2355.
  4. Panni AS, et al. Tibial internal rotation negatively affects clinical outcomes in total knee arthroplasty: a systematic review. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2018;26(6):1636-1644.